2002年 08月 07日
劇団☆新感線 Inouekabuki Shochiku-mix 『アテルイ』@新橋演舞場 |
作:中島かずき 演出:いのうえひでのり
阿弖流為:市川染五郎/坂上田村麻呂:堤真一/鈴鹿・釼明丸:水野美紀/立烏帽子:西牟田恵/紀布留部:植本潤/佐渡馬黒縄:橋本じゅん/飛連通:粟根まこと/大獄:逆木圭一郎/無碍随鏡:右近健一/阿久津高麻呂・覆面男1:河野まさと/大伴糠持・覆面男2:吉田メタル/赤頭:インディ高橋/青頭:磯野慎吾/丸頭:村木仁/阿毛斗:村木よし子/薊:山本カナコ/阿毛留:中谷さとみ/阿毛志:保坂エマ/翔連通:川原正嗣/闇器:前田悟/御霊御前:金久美子/蛮甲:渡辺いっけい
おもしろかったー!! ある程度期待はしてたけど期待以上!! 満足ー!!
【おまけ】今日は粟根さんのお誕生日でした.全然知らずに行ってたから2度目のカーテンコールで「今日は僕たちの仲間の粟根まことさんの誕生日です」と染五郎が話しだして、あらびっくり.びっくりしたのは粟根さんも同様のようで、周りからセンターに行けって突っつかれても最初は抵抗されてましたねー.真ん中に来た粟根さんに上手からバースデーケーキが登場.さすがに年齢分のろうそくは立ってなかった.またまた染五郎が音頭をとって会場中で「♪ハッピーバースデー」の歌をプレゼント.ろうそくを吹き消して拍手拍手.恐縮して照れまくり、思わず染五郎の肩をどつく粟根さんが見物でした.堤さんにも何かからかわれていたようでどつきかましてたような.何度も何度も客席におじぎをされてましたね.一言あるかなあってちょっと期待したけどさすがにそれはなかった.「ケーキは楽屋で皆で食べます」と堤さん.最後まで舞台に残っている姿が「どうすればいいの?」って感じでいやに可愛かった.最後に下手にはける時も、ちょうど前にいた堤さんに「まだ来るな」とばかりに舞台に押し戻されていて、照れ隠しなのかその反動でコロンと転がる粟根さん.きっとすっごい照れてたんだろうなあ.思わぬ機会に恵まれてお得な観劇となりました.
新感線の芝居としては非常に骨太な人間ドラマになっていて観終わった後はしばらくボーっとなってしまった.いつの時代でも正史の裏に隠れてしまった虐げられた人達がいる.そういう歴史の上での正反対の立場と、それに絡むように登場する男と女というこれまた正反対の立場でのドラマが交錯してて、とても見応えがあった.もちろんアテルイと田村麻呂という2人の英雄はかっこいい.でも私には「守りたいものを守る」という果てしなく個人的な思惑で動いている立烏帽子、御霊御前、鈴鹿といった女性達がとても魅力的に映った.publicな男性とprivateな女性という普段感じてることがここでも如実に表れていて興味深い.私利私欲という卑小なことではなくて、純粋に守りたいが為の暴走に見えて切なかったなー.特に立烏帽子と阿毛斗はたまらなかった.
女達はこんなに男を思ってるのに、結局男は男を取るのだなあと思ったり.というか愛する女性より大義名分を取るのね.田村麻呂と鈴鹿がいわゆる恋物語担当キャラのはずだろうけど、実際はアテルイと立烏帽子の結び付きの方が強烈だった.鈴鹿が田村麻呂を想う気持ちはかなり書き込まれているのに、田村麻呂の気持ちというのが最初のおちゃらけシーンくらいしかなくて、アテルイに対する想いの方が強く出てしまっていたからか.
1幕目は放浪の身でまだ戦う意志の定まっていないアテルイより田村麻呂の方が見せ場があって目立ってたけど、蝦夷の長となる覚悟の出来た2幕目からは俄然アテルイが生き生きとしてきた.もっとも一番印象に残ったのは立烏帽子の「つめたい男よのぉ」という台詞.これには泣けた.なんて強くて脆くてかっこいい女性なんだ.あそこで髪を下ろした演出も良かった.女になるんだよねえ…哀しいなあ.
今回のセットはシンプルだけど効果的といった感じ.モノトーンが多用されていて全体的に色の印象が薄かったので、降りしきる雪や最後のねぶたがパーッと鮮やかに映った.特に雪はこちらにまで迫ってくるようできれいだった.演舞場という小屋の特性をこれでもかというくらい利用していたのも印象的.歌舞伎でもこんなに使わないってくら廻り舞台やセリと使いまくってた.歌舞伎の場合ある程度お約束として回る時は回る、上る時は上るって具合に「待ってました」風に使われることが多くて、そういう場合客は「ああ、使ってるな」って比較的のんびりそれを見てるけど.新感線の場合は物語がどんどん展開しながら流れるように使われているのがおもしろかった.特に3階席からだとそれが良くわかる.たまに奈落が空いてたりするとこっちまで冷や冷やしてしまったりもした.やってる人も気をつけないと危ないよね.
売りである両花道、対面芝居はそれほどなかったけど捌け口を分けることで、大和と蝦夷の二つの対立がよりわかりやすくはなっていた.まあ、無くても問題ないとは思ったけど.ただアテルイと田村麻呂が一緒に花道を引っ込んでいくのはかっこよかったなあ.
個々の役者はというと…
まずは染五郎.歌舞伎より全然生き生きしてるんじゃない.歌舞伎の世界ではほとんど興味のない人だけど、こういう芝居ではさすが伊達に長い間舞台やってるわけじゃないなって思わせるね.何より動けるし.正直ここまで動ける人だとは思っていなかった.動くたびにヒラヒラ舞うスカートのような衣装が効果的だった.ただ声が難点だなあ.サ行が言えないのか、ここぞという決め台詞に限って「しゃししゅしぇしょ」になってるのはなんとかなりませんか.「しょれはできぬ!」とかかっこつけて言われても、緊張感途切れますって.猿之助が乗り移ったのかと思った.見得や六法や語りはさすがに決まってたから余計にそこだけ気になってしまった.残念だわー.こういう染五郎を見てるといつかは新之助や菊ちゃんにも出てもらいたいって思う.無理……かなあ?
堤真一.野獣郎を見た時も思ったけどさっぱりクリーンなのがこの人の持ち味なんだろうなあ.そういう点で野獣郎より田村麻呂の方が仁だと思った.染五郎のアテルイは悲壮感を纏わせてたけど、この人の場合どんな逆境に立たされてもどこか明るく知的な空気が漂ってる.ただ情に薄い感じもして、だからこそ鈴鹿への愛情ってのがよくわかんなかった.でもまったく対照的な2人だからこそ2人の英雄が惹かれていくのに説得力があった.楽しそうに殺陣やってるのもお坊っちゃんな田村麻呂っぽい.染五郎が水のような殺陣だとしたら堤真一はナイフのような鋭い殺陣.どちらもかっこよかった.そうそう、この日は堤さんだけどうしたんだってくらい台詞を噛んでましたねー.まあ、あまり気にならなかったけど.
水野美紀.アクションが出来るってことで期待したんだけど、いかんせん男2人が凄すぎてちょっと損だったかな.普通の女優さんに比べれば全然動けてるはずなのに、そう見えなくなっちゃってる.近くで見るとまた違うんだろうけど3階から眺めてたら顔の美醜なんてどうでもいいからねえ、とにかく声に自信のなさそうなのが良くない.鈴鹿・釼明丸では釼明丸の時のほうがキリリとしてるべきじゃないんだろうか.鈴鹿の方がよっぽど元気に見えたけど、あれ?もしかして釼明丸は人外の幻みたいなものだから感情を抑えてるとか?
西牟田恵.好きだー!! 大好きだー!! 今回一押し.こんなにかっこよい女優さんだとは思わなかった.ハスキーな声も素敵だし、何より動きが機敏.殺陣もかっこよかった.傲慢な神の姿に共感を覚えることができたのはこの人だからこそ.あー、かっこよかったーとしか言えないわ.惚れた惚れた.
植本潤.嫌な奴なのにとっても可愛く思えるのは植本さんのなせる技? 劇団員に負けないくらいアクが強い.素晴らしい.比較的笑いの少ない今回のお芝居の中でじゅんさんの次に笑いを取ってた.こちょこちょと小芝居もしてるので目が離せない.
渡辺いっけい.卑怯で小心者な蛮甲という主役2人とは対照的な男としてとても重要な役をきっちり演じててさすが.出すぎないところも好感度アップ.
村木よし子.今回西牟田さんと同じく印象に残ったのが村木さん演ずる阿毛斗.最初の登場の時はさすがに唖然としたけど、ああいう登場の仕方をしておいてまさかあんな展開になるとは.なんともかっこよい女性だった.四方八方から刺されて死んでいく最期は見ているのが辛いくらい痛々しかった.
橋本じゅん.おもしろい!いいなあ、じゅんさん.好き放題やってますーって雰囲気がいい.堤さん、本気で笑ってた.肩震えてたもん.クマコの裏切り(?)は笑いどころのようだったけど、私は本気で可哀想になってしまった.ひどいよ、クマコ……
そして粟根さん.今回は川原さんとペアで田村麻呂の二枚刀という役どころ.小ネタのいれどころのないカッコイイ役だった.そして甲冑衣装が妙に似合ってた.でもピンで活躍する場所というのが最後のアテルイとの対決くらいしかなくてちょっと寂しい.やはり小ネタのはさめるおちゃらけキャラの方が見ている分には楽しいなあ.でもペアといってももっぱら台詞は粟根さん担当になっていて、真面目できりっとした声が一杯聞けたのは嬉しい.声、素敵なんだもん.初回ということもあって話にひきずられてたので粟根モードにはならなかったけど、最前で見る時のことを考えて立ち位置だけはしっかりチェックしているあたり、我ながらなんというかいじましい.
by furupanda
| 2002-08-07 16:32
| 芝居